研究者のDX学習帳

材料メーカー研究所の若手が未経験から本気で学ぶ等身大のDX成長記録

研究所DX実践ログ #02|やるべきことを見極めることの難しさ

eyecatch.png


前回の記事で、私はこう書いた。

「これからは推進側として実践に向き合います」

格好いい予告だったと思う。

しかし実際に動き始めてみると、最初の壁はシステム設計でも組織の合意形成でもなく、もっと手前にあった。

「そもそも何を解くべきか」が、まだよく分かっていなかったのだ。


テーマは決まった。しかし、何が問題なのかはまだ分からなかった。

前回の記事では、取り組むテーマの概要が決まったところまでを書いた。

研究所における開発品の管理システムをゼロから構築する、というテーマだ。

QRコードを各開発品・各ロット・各サンプルに付与し、在庫・状態・履歴をリアルタイムで可視化する。「誰かが分かっている」状態から「みんなが見える」状態へ。構想としては筋が通っている。

しかし上司と話し始めると、その筋の通った構想が、少しずつ揺らいでいった。

詳細を詰めようとするほど、「これは本当に解くべき問題なのか」という問いが頭をもたげてくる。

会話の中で何かが明確になるというより、問いが増えていく感覚だった。整理しようとするたびに、整理しきれない何かが残る。

その「何か」の正体を、私はうまく言葉にできないまま、しばらく考え続けた。


目に見えるものを直しても、目に見えない問題は残る。

やがて少しずつ輪郭が見えてきたのは、問題の本質が「目に見えない側」にある可能性だった。

作業の手間や情報の見えにくさといった、目に見える不便さは確かに存在する。

しかしその奥には、業務そのものの段取り、現場の慣習、組織として何を優先してきたかという体質のようなものが横たわっている。そちらの方が、問題の核心に近い場合が多い。

例えばの話をする。

エクセルで管理している台帳を、何らかのアプリに置き換えたとしよう。見た目はDXらしくなる。しかし入力の手間がまったく変わらなければ、現場の負担は減らない。むしろ慣れないツールへの移行コストが加わる分、一時的には増える。

システムが変わっても、フローが変わらなければ、何も変わらないのだ。

さらに言えば、システムを管理する側と、現場で使うユーザー側では、そもそも見えている景色が違う。

管理側が「便利なはずだ」と思って設計したものが、現場では「使いにくい」と判断されて、やがて誰も使わなくなる。そういう事例は、DXの失敗談として枚挙にいとまがない。

だから、徹底したユーザーヒアリングが必要になる。

現場が何に困っているかを、自分の言葉ではなく、現場の言葉で理解することが先決だ。


現場に行ったら、電波が弱かった。

そんなことを頭で考えながら、実際に現場を確認しに行った。

QRコードを読み取ってリアルタイムでシステムにアクセスする。その構想を実現するには、現場のどこでスキャンするか、端末は何を使うか、といった物理的な条件を把握しておく必要がある。

現場に足を踏み入れてすぐに気がついた。

Wi-Fiの電波が、ほとんど飛んでいなかった。

リアルタイムでシステムにアクセスする以前の問題だった。

電波がなければ、どれだけ精緻なシステムを設計しても、現場では動かない。きれいな構想図より先に、確認すべきことがあった。インフラの整備には他部門への根回しも必要になる。DX推進とは関係なさそうな話が、実は土台にある。

「システムより先に、電波を確認しろ」。

我ながら、良い学びだったと思う。笑えるが、笑えない。


では、やるべきことをどう見極めるか。

この経験を通じて、自分なりに考えたことがある。

まず、現状を正しく認識することだ。それも、文章で事細かに言葉で表せるくらいの解像度で。「なんとなく困っている」では、何を解けばいいかが分からない。「誰が・何を・どのタイミングで・どれくらい困っているか」を言語化できて初めて、問題の輪郭が見えてくる。

次に、理想の状態を明文化すること。

どうなっていれば良いのかを、具体的な言葉にする。「便利になる」ではなく、「誰がどの操作を何分短縮できるか」くらいの粒度で描けると、現状とのギャップが見えやすくなる。

そのギャップを埋めるために必要なことを列挙し、必要でないことを省く。上司に確認を依頼し、フィードバックをもらう。そのフィードバックによって、また現状と理想とギャップの認識が深まる。それをまた整理して、また確認してもらう。

この繰り返しに、近道はない。

時間がかかるし、上司の手間も発生する。だからこそ、着手前になるべく早くテーマ策定を始め、上司とも良好な関係を築きながら進めることが重要だと、今は思っている。


それでも、まだ答えは出ていない。

良いシステムを作ることよりも、良いイシューを見つけることの方が、ずっと難しい。

何を解くべきかが正しく定まれば、解き方は後からついてくる。しかし正しいイシューを見つけるためには、現場を知り、言葉を積み重ね、問い直し続けるしかない。

私はまだその途中にいる。

答えは出ていない。ただ、問い続けることをやめなければ、少しずつ近づいていけると思っている。

本ブログは「研究者のDX学習帳」。 材料メーカー研究所の若手が、DXを未経験から本気で学ぶ等身大の成長記録です。